安田隆夫さんは、総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」の創業者です。
ドン・キホーテが成長する過程では安田隆夫さんのアイデアである圧縮陳列やユニークなPOP洪水などがピックアップされましたが、今や国内外で700店舗に迫る勢いで出店し、総売上高は1.7兆円(2021年6月期)という小売最大手の一つとなっています。
本稿では、街の一商店から超巨大企業を作り上げた、創業者の安田隆夫さんの人物像をクローズアップし、生い立ちや現在の活動、評判などを徹底調査していきたいと思います。
- 安田隆夫のプロフィールや人物像、著書をひとまとめ
- 安田隆夫の経歴はドロップアウトからの起業成功
- 現在はPPIHの取締役(非常勤) 創業会長 兼 最高顧問
- 安田隆夫の著書から口コミ評判を読み解く
- PPIH(旧ドンキホーテHD)の企業原理・経営理念
- PPIH(旧ドンキホーテHD)の6つの事業
- 常識に捉われない発想がドン・キホーテを巨大企業に
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安田隆夫とは?
安田隆夫さんは、総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」の創業者で、現在はドン・キホーテなどを統括する持株会社PPIH(株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)の取締役(非常勤) 創業会長 兼 最高顧問という役職についています。
最初は1978年に東京で開店した18坪のディスカウントショップ「泥棒市場」から始まり、次に卸売業の「現金問屋」を運営し、それらのノウハウを活かして1989年に「ドン・キホーテ」を開店しました。現在もドン・キホーテグループのトップであり、海外での新事業(新業態)の起業と市場開拓に意欲を見せています。
プロフィール
- 生年月日:1949年(昭和24年)5月7日
- 年齢:満73歳(2022年現在)
- 出身地:岐阜県大垣市
- 学歴:岐阜県立大垣南高等学校、慶應義塾大学法学部卒業
- 家族構成:妻(マ・ヤピン)、息子(安田純也)
- 現職:PPIH取締役(非常勤) 創業会長 兼 最高顧問
- 現住所:シンガポール・セントーサ島
人物像
安田隆夫さんは、自身の幼少期について「ガキ大将」「休み時間には読書をしている」という二面性を語っています。ガキ大将のようにエネルギッシュで、それでいて読書で様々な情報を仕入れる、現代の経営者に求められる資質をすでに身につけていたようです。
また、10代の頃には「社会に適合していないという劣等感」「他の人たちとは違う自信への誇り」というこれも相反するように思える2つの思いを抱いていました。劣等感は見返してやるというエネルギーの源泉になりますし、自分に自信を持っているということも経営者向きだといえます。
また、小売業に本格参入するに当たり「逆張り」にも注力したと語っています。既存の大手小売業に勝つために、大手がやっていることの真逆を推し進めるという、精密な計算と分析による大胆不敵な戦略を取れる人物でもあります。
著書
安田隆夫さんは複数の著書があります、すべて自身の経営者としての経験などを語るビジネス書となっています。
特に、最新の著書『安売り王一代 私の「ドン・キホーテ」人生』はアマゾンでのレビュー評価が高く、☆4.3(2022年7月時点)をつけています。
レビューコメントでも安田隆夫さんの逸話を語るストーリーテラーとしての面白さ、インテリジェンスの高さ、軸がブレない強さ、逆張り経営の凄さなどに高い評価が集まっています。
■著書リスト
- 「流通革命への破天荒な挑戦!-ビジネスの原点は「常識」を疑うことだ」(1997年、広美出版事業部)
- 「ドン・キホーテの「4次元」ビジネス-新業態創造への闘い」(2000年、広美出版事業部)
- 「土壇場の逆転力」(2002年、海潮社)
- 「ドン・キホーテ闘魂経営-ゼロから始める成功の極意」(2005年、徳間書店 ※月泉博との共著)
- 「情熱商人-ドン・キホーテ創業者の革命的小売経営論」(2013年、商業界 ※月泉博との共著)
- 安売り王一代 私の「ドン・キホーテ」人生(2015年、文春新書)
安田隆夫の生い立ちと経歴
安田隆夫さんは岐阜県大垣市で生まれ、高校まで地元の岐阜県立大垣南高等学校に通っていました。勉強ができて頭の良かった安田隆夫さんは、慶應義塾大学入学を機に上京して東京での生活をスタートさせます。
それからの人生は、ドヤ街で生活したり、就職した会社が倒産したり、20代最後の年で起業した「泥棒市場」が流行ったりと、まさに波乱万丈と言えるものでした。「泥棒市場」も短期で見切りをつけ、卸売業の現金問屋運営を経てPPIH(旧ドンキホーテHD)を創業するというのが、 安田隆夫さんの簡単な経歴となります。
慶應義塾大学入学を機に上京
意気揚々と岐阜から上京した安田隆夫さんでしたが、当時はまだ髪の伸びかかった丸坊主頭で、本人曰く“すすけた恰好”だったそうです。そのため、アイビー全盛のいわゆる慶応ボーイの輪には溶け込めず、文化が全く合いませんでした。そこで自分を曲げて無理して慶応の輪に入ることはせず、船荷の積み卸しをする沖仲仕の仕事で稼いだり、麻雀とパチンコにハマったりして、1年の中で100日ぐらいは日雇い労働者が集まるドヤ街で生活していました。
ディスカウントショップ泥棒市場を開業
大学を卒業してからは独立を視野に入れて不動産会社に就職します。しかし、その会社が倒産、その後に先輩と2人で立ち上げた不動産会社もうまく行かず、フリーターとして生活費を稼ぐという生活に陥ります。
そして20代最後の29歳になってようやく実業の世界で立身すると決意して、ディスカウントショップ泥棒市場を開業することになります。わずか18坪の雑貨店・泥棒市場は、深夜12時までの「深夜営業」、宝探しをするかのような「圧縮陳列」、目を引く「ユニークPOP」などが評判となり、年商2億円を売り上げる人気店になり、個人商店としては大成功となりました。
現金問屋運営を経てPPIH(旧ドンキホーテHD)を創業
泥棒市場は繁盛しますが、規模の問題で限界を感じて事業を売却します。
その後、卸売業の現金問屋を運営し関東一の規模に成長させます。
そしていよいよ、大きな資金を手に再度小売業へと参入し、1989年に「ドン・キホーテ」1号店を東京・府中市に開店したのです。
現在の活動
現在、ドン・キホーテはグループ会社になり、トップに持株会社PPIHを据えて、巨大企業になっています。そのPPIHにて、取締役(非常勤) 創業会長 兼 最高顧問という実質的にトップの座についている安田隆夫さんは、どのような戦略を持っているのでしょうか。
日本での事業はPPIHのCEO(最高経営責任者)吉田直樹さんに一任し、安田隆夫さんの目はアジアをはじめとする海外事業を見据えています。これは、日本国内の消費市場は人口構造的、経済構造的に縮小するのが間違いないとし、会社が成長するためには、日本を拠点としつつ、環太平洋(パン・パシフィック)にドメインを拡大した戦略展開をするべきだという考えからです。
住居をシンガポールに移したのも、アジア経済のみならず、国際ビジネスの拠点でもあるシンガポールから広い視野で指揮をとるためでしょう。
安田隆夫の口コミ評判
安田隆夫さん個人に対する人物像や性格などに対する口コミ評判はネット上では見かけません。そこで、著書への書評から口コミ評判を集めてみました。
実際に本人に会った印象と本の内容のシンクロが面白い
講演会で感じた、「見た目は怖いけど、中身はまっとうで魅力がある人」という印象が本の中でも炸裂していました。
なぜ魅力があるのかというバックグランドが本当によくわかる内容でした。
人によっては強面に見える安田隆夫さんですが、一度話せば皆が取り込まれてしまう、魅力に溢れた人物です。
同業の小売業としてためになる考えの持ち主
逆張りや非常識、そういったことをする人が経営者として成功するのだとわかった。それも単に無茶に突き進むのではなく、考え抜いた末の行動、マーケティングなどのビジネス的な素養の深さからくるもので、見習うべきところが多すぎる人だと思う。
大学では馴染めなかったとしていますが、もともと地頭は良いので経営者として学ぶべきことはしっかり学んでいて、マクロ経済やマーケティング、独自の複利経営、ポートフォリオなど、経営の知識、そしてバランス感覚は抜群です。
お客さまを見るという考え方に感動
深夜営業や圧縮陳列、POP洪水が成功したのも「お客さまを見る」という、小売業の原点とも言える安田隆夫さんの視野の広さがあったからだろう。深夜に来て、がらくた市のように散乱する店内で楽しそうに品物を探すお客さん、それを見てそこに商機があると気がつける経営センス、本当に感心してしまう。
泥棒市場、現金問屋、ドン・キホーテと、業種や規模などは異なりますが、安田隆夫さんは一貫してお客さん最優先主義を主張しています。
安田隆夫の口コミ評判まとめ
著書からは安田隆夫さんのエネルギッシュな人柄がにじみ出ていて、読者はその力強さに魅了されているようです。また、小さな店から巨大企業を一代で築き上げたビジネスマンとしての手腕にも高い評価が集まっています。
「逆張り」や「権限委譲」、「凡庸は楽だが即死を意味する」、「orではなくandを目指す」などの名言も多く、人々の心に残る人物という評判も多くあります。
安田隆夫が創業したPPIH(旧ドンキホーテHD)
1989年に開業したドン・キホーテは、1995年に商号を株式会社ドン・キホーテに変更し、1997年に東京証券取引所市場第二部に上場、2000年に東京証券取引所市場第一部銘柄へ指定変更と、順調に成長します。
そして2013年には商号を株式会社ドンキホーテホールディングスに変更し、純粋持株会社体制に移行し、2019年には株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)へと商号変更します。
会社は規模に応じて変遷していきますが、安田隆夫さんが掲げる企業原理、経営理念はブレていません。
企業原理
企業原理は「顧客最優先主義」です。これは、「いついかなる時も、お客さまの暮らしを支え、お買い物の楽しみを提供することを第一に、行動すること」としていて、小売業のドン・キホーテとしては絶対に譲れない原理となっています。
この考えは経営者の安田隆夫さんはもちろん、社員一人ひとりにも共有される考え方で、「顧客最優先主義」を突き詰めれば、そこに成長のきっかけが得られるとしています。
経営理念
経営理念としては以下の6か条を掲げています。
- 第一条 高い志とモラルに裏づけられた、無私で真正直な商売に徹する
- 第二条 いつの時代も、ワクワク・ドキドキする、驚安商品がある買い場を構築する
- 第三条 現場に大胆な権限委譲をはかり、常に適材適所を見直す
- 第四条 変化対応と創造的破壊を是とし、安定志向と予定調和を排する
- 第五条 果敢な挑戦の手を緩めず、かつ現実を直視した速やかな撤退を恐れない
- 第六条 浮利を追わず、中核となる得意事業をとことん突き詰める
この経営理念は、企業原理「顧客最優先主義」を実現するための行動理念として存在しています。つまり、ドン・キホーテでは何よりも「顧客最優先主義」が優先されることを意味しています。
PPIH(旧ドンキホーテHD)の事業内容
いまやドン・キホーテだけではなく、複数の会社、事業、ブランドを展開しているPPIH(旧ドンキホーテHD)。
ここでは、その事業内容を細かく紹介していきます。
ディスカウントストア事業
PPIHの中核をなす ディスカウントストア事業には「ドン・キホーテ」「MEGAドン・キホーテ」「長崎屋」があります。
これらの店舗は、ターゲットや売り場面積、アイテム取扱数などに応じて差別化が行われています。
総合スーパー事業
主婦やファミリー、シニア層などがターゲットの総合スーパー事業には「APITA」「ピアゴ」があります。
豊かな日常生活を提案するために多彩な商品を揃え、広域商圏対応型や、地域密着型の品揃えとサービスが特徴となっています。
スモールフォーマット事業
ドン・キホーテ店舗のスタイルをさらに凝縮させた、いわば原点である「泥棒市場」に近い業態なのがスモールフォーマット事業です。
ブランドは「驚安堂」「ピカソ」があり、ドラッグストア、コンビニエンスストア、ミニスーパーをごちゃまぜにしたようでありながら品揃えを絞り込み、都心小商圏に対応する小型店舗で運営されています。
海外リテール事業
安田隆夫さんが力を入れている事業が海外リテール事業で、ブランドは「ドン・キホーテ」「Gelson’s」「MARUKAI」「DON DON:DONKI」「SUPERMARKETS Times」の5つです。
海外展開はアメリカのハワイ、カリフォルニア、シンガポール、タイなどの東南アジアで、PPIHの名前の通り、環太平洋エリアに新展開しています。
その他の事業
その他の事業としては「日本商業施設」「D-ONE」「REALIT」の3つがあります。
これらは、商業施設の開発や不動産(飲食店アミューズメント施設の管理など)、訪日観光・国際交流の推進・広告プロモーションなどを手掛け、本業の小売業の補完をする役割を担っています。
安田隆夫の常識に捉われない発想
ここまででも触れてきましたが、ドン・キホーテが大成長した要因として、 安田隆夫さんの常識に捉われない発想があります。
大きく3つあげるとすると「ナイトマーケット需要の発見」「独特なお買い物空間の創造」「信じて頼む“権限委譲”の開始」となります。
「ナイトマーケット需要の発見」は夜中に品出しの作業をしていたところ、営業していると勘違いしてやってきたお客さんを追い返すのではなく、快く店内へと受け入れて買い物をしてもらった経験が原点です。その偶然を夜間に営業する需要があると発見し、深夜営業開始に繋がりました。
「独特なお買い物空間の創造」は店内ペースの狭さを逆手にとり、床から天井まで商品を積み上げる圧縮陳列、そして大量の手書きPOPで実現しています。
そして「信じて頼む“権限委譲”の開始」は、従業員に自分の考えを教えるのではなく、自分で考えてやってもらうことです。経営者としては店舗運営のほとんどを任せてしまうのは勇気がいることですが、権限を委譲することで各店舗にオリジナリティが出て、ドン・キホーテ成長のきっかけにもなりました。
これら3つのことは当時の小売業では異例のことで、安田隆夫さんならではの経営術と言えます。
まとめ
以上がドン・キホーテの創業者である安田隆夫さんについて、生い立ちや現在の活動、評判などを徹底調査した結果です。
わずか一代でドン・キホーテグループ(現PPIH)を約1.7兆円もの売り上げに押し上げ、今後は2兆円も視野に入れているという、驚異的な経営者です。そのアイデアや逆張りという姿勢、経営者としての視野の広さ、顧客最優先主義という原理など、小売業界や経営者のみならず様々な人から高い評価を受けています。
2015年には一度ドンキホーテホールディングス代表取締役会長兼CEOを退任しますが、2019年にはPPIHの取締役(非常勤) 創業会長 兼 最高顧問に復帰し、海外展開に意欲を見せています。
すでに70歳を超えられていますが、その手腕が衰えたという評価はまったくなく、今後もドンキグループの世界進出に大きな力を発揮することが期待されている人物です。