不動産鑑定士について、名前は知っていても業務内容など詳しく知らない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、不動産鑑定士と呼ばれる職業について、年収や仕事内容、受験資格や求人情報など、さまざまな角度から詳しく紹介します。
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不動産鑑定士の仕事内容とは?実際の業務内容を詳しく解説
不動産鑑定士の仕事内容について、その業務の具体的な内容や関わる分野について詳しく解説します。
不動産の価値を査定する専門職としての役割とは何かを理解しましょう。
不動産鑑定士の仕事内容は4つ
不動産鑑定士は、不動産の経済的価値を判定し、評価を価格として表す、同名の国家資格を持つ不動産の専門家です。
不動産鑑定士の仕事内容は次の4つがあげられますが、「不動産鑑定評価」は一番重要な仕事です。
不動産鑑定士の仕事内容
- 不動産鑑定評価
- コンサルティング業
- 調査・分析
- 国際評価(海外物件の評価)
それぞれどんな仕事内容なのか、順番に詳しく解説します。
不動産鑑定士の仕事内容1.不動産鑑定評価
不動産鑑定評価は、不動産鑑定士の仕事内容の中で一番重要な業務です。
土地や建物などの不動産の経済価値を、社会情勢や周囲の地理的状況、市場経済などのさまざまな要素を考慮して評価することです。
評価結果は「不動産鑑定評価書」として法的効力を持つ文書化され、売買や相続、担保設定など、さまざまな場面で重要な役割を果たします。
この「不動産鑑定評価書」の作成は、不動産鑑定士だけができる独占業務です。
不動産鑑定士の仕事内容2.コンサルティング業
鑑定評価に基づき、不動産の有効活用や開発計画について、顧客のニーズに合ったアドバイスや提案します。
顧客は個人から企業まで幅広く対応するため、マンションの建替えや再開発事業に関わる権利調整など、相談内容も多岐に渡ります。
CRE(Corporate Real Estate・企業不動産)を経営に活用するためのCRE戦略サポートに携わる場合もあるため、不動産鑑定士の仕事は鑑定評価に収まりません。
不動産鑑定士の仕事内容3.調査・分析
不動産市場の動向や取引価格水準、地代家賃などの調査・分析を実施します。不動産売買や担保価値の把握、不動産投資や処分など、現地調査や公的資料の収集も含まれています。
鑑定評価は調査・分析結果を基に実施され、適切な情報を顧客に提供するために必要な業務です。
不動産鑑定士の仕事内容4.国際評価
グローバル化が進むに伴い、不動産投資は海外から国内、逆に国内から海外へと市場が活発化しています。
海外の不動産物件も調査・評価を実施するため、国際的な案件対応も不動産鑑定士の業務の1つです。
不動産鑑定士の役割は鑑定評価で適正な取引に導くこと
不動産鑑定士は、不動産取引の公正性と透明性を確保するために必要な存在であり、専門知識と技能によって多様なニーズに応えています。
法律的に認められている、不動産鑑定士でなければ作成できない「不動産鑑定評価書」は、相続税や固定資産税の算定、融資の担保評価などのさまざまな場面で必要になる書類です。
こうした重要な書類を作成するための調査・分析による鑑定評価、さらに専門家としてのアドバイスを求められるコンサルティング業も請け負うため、不動産鑑定士には適正な評価する必要があります。
不動産の価格設定から顧客が抱える悩みを解決へ導くためにも、適正な取引へ導くことが不動産鑑定士に求められる役割です。
不動産鑑定士になるには?試験勉強の時間と対策のコツ
不動産鑑定士になるにはどうすれば良いのか、勉強にかかる時間や効果的な対策のコツについて解説します。
試験合格のために知っておくべきポイントを整理します。
不動産鑑定士になるには試験勉強2,000時間以上
不動産鑑定士になるには、国家資格である不動産鑑定士試験に合格する必要があります。
試験は短答式と論文式の2段階で構成されており、それぞれ試験実施月が違います。
不動産鑑定士になるのは試験合格後ではなく、合格後の実務修習を経て登録されてからです。
先に不動産鑑定士試験に合格するためには、2,000時間から5,000時間の勉強が必要とされています。
受験生によって生活や学習スタイルが異なるため、試験勉強にかかる時間は個人によりますが、長期間の勉強が必要になるのは間違いありません。
不動産鑑定士になるには計画的な学習とアウトプット
不動産鑑定士試験に合格するまでに必要な時間が長いため、効果的な対策をとるのがいいでしょう。
効果的な対策のコツは、計画的な学習スケジュール設定と、積極的なアウトプット学習です。
試験が2段階構成になっているため、試験日程を把握し、短答式試験と論文式試験のどちらも合格するために、対策を並行して進めるためのスケジュールを立てましょう。
アウトプット学習は、知識を定着させるために重要です。インプットだけでは、問題と向き合ったときにすぐ回答するのは難しい場合が多くなります。
過去問題を繰り返せば出題形式に慣れますし、自分の言葉で理論を理解し説明できるようになれば、論文式試験の対策にもなります。
論文式試験は、自分の考えを文章として表現しなければならないため、内容を理解していないと記述が難しくなります。
不動産鑑定士の受験資格と試験の概要/必要な条件と流れ
不動産鑑定士になるための受験資格や試験の内容について詳しく解説します。
必要な学歴や実務経験の有無、そして試験の概要についても確認しましょう。
不動産鑑定士試験の受験資格は制限なし
不動産鑑定士には受験資格が設定されていません。年齢、学歴、職歴や国籍に関係なく、受験料さえ支払えば誰でも受験できます。
不動産鑑定士になれるのは、合格後の実務修習を経て登録されてからであるのは、先ほど説明した通りです。
しかし実務経験も必要ないため、不動産鑑定士は受験資格に制限がなく、挑戦がしやすい国家資格といっていいでしょう。
不動産鑑定士の試験概要と流れ
不動産鑑定士の試験は、短答式試験と論文式試験の2段階あるのが特徴です。
試験概要については次の表の通りです。
不動産鑑定士試験概要
項目 | 短答式試験 | 論文式試験 |
---|---|---|
試験時期 | 5月中旬 | 8月上旬 |
出題科目 | ・不動産に関する行政法規 ・不動産の鑑定評価に関する理論 | ・民法 ・経済学 ・会計学 ・不動産の鑑定評価に関する理論(理論と演習) |
出題形式 | 択一式(マークシート方式) | 記述式(論文形式) |
出題数 | 各科目40問(合計80問) | 各科目2問ずつ(不動産の鑑定評価に関する理論は演習問題も含む) |
試験時間 | 各科目120分(合計240分) | 各科目120分 |
合格基準 | 総合点で約70%以上 各科目ごとに一定の得点が必要 | 総合点で約60%以上 各科目ごとに一定の得点が必要 |
受験手数料 | ・電子申請:12,800円 ・書面申請:13,000円(収入印紙で納付) | なし(短答式試験申し込みの際の受験料に含まれている) |
不動産鑑定士試験は毎年2月上旬から3月上旬まで願書を受け付けており、例年5月中旬に短答式試験を実施しています。
合格者のみが例年8月上旬に実施される論文式試験を受験できるのが、試験の流れです。
不動産鑑定士の試験難易度/合格率はどれくらい?
不動産鑑定士の難易度について、試験の合格率や受験に必要な勉強時間について具体的なデータを基に解説します。難関資格と呼ばれる理由を理解し、合格への対策を考えましょう。
不動産鑑定士は難易度が高く合格率も低い難関資格
不動産鑑定士は、受験のハードルは低いものの、難易度が高く合格率も低い難関資格です。
近年の合格率は、短答式試験が約30%、論文式試験が約15%前後の結果がでています。
難関資格と呼ばれている理由は合格率の低さも関わっていますが、試験自体の難易度も関係しています。
構成が2段階になっている試験ですが、短答式試験では総合的な法令知識と評価理論を、論文式試験では実務的能力が問われます。
論文式試験では「不動産の鑑定評価に関する理論」で応用力が求められ、しかも自分で考えた文章で表現する力が必要な点が、試験の難しさを表しているといっていいでしょう。
そして不動産鑑定士の試験合格に向けた勉強時間の長さも、難関資格と呼ばれる理由の1つです。
不動産鑑定士は勉強時間が長期で必要
不動産鑑定士は勉強時間が長期で必要となるため、合格への対策を考えてから取り組みましょう。
勉強時間は2,000時間から5,000時間が必要とされていますが、2つの試験ごとに分けると、次の勉強時間が目安です。
・短答式試験:約700時間から1,000時間
・論文式試験:約1,300時間から3,000時間
多くの受験生は約2年かけて短答式と論文式の学習しています。
不動産鑑定士の勉強時間が1日にどれだけ確保できるかは各個人のライフスタイルによるため、学習計画を立ててから勉強を始め、理解を深めて試験に臨むのをおすすめします。
不動産鑑定士の実務修習とは?資格取得後の重要なステップを紹介
不動産鑑定士の実務修習について、その目的や具体的な内容について解説します。
資格取得後にどのような実務経験を積む必要があるのかを詳しく理解しましょう。
不動産鑑定士の実務修習の目的
不動産鑑定士実務修習は、試験合格後、不動産鑑定士として登録を受けるために必ず受けなければならない研修です。
その目的は、不動産鑑定士に必要な知識と経験、登録資格取得のためです。専門的技能が必要になるのは当然ではありますが、実務経験も求められます。
実務修習には講義だけでなく実地演習もあり、重要な書類を作成しなければならない業務であるため、実際の不動産評価業務に必要な経験を積ませてから活動させる目的があるのでしょう。
不動産鑑定士としての専門性を高めるためには、実務経験を積むことが最も必要となります。
資格取得後に必要となる実務経験の数を積み上げる前に、実地演習を通じて適正な評価ができる不動産鑑定士を育成する目的があるのかもしれません。
不動産鑑定士の実務修習で実施される3つの内容
不動産鑑定士試験の実務修習は、次の3つにわかれています。
・講義:eラーニング形式で受講
・基本演習:東京で合計10日間、実務を想定して実施される演習
・実地演習:実際の物件を調査し、鑑定評価報告書作成する演習
実務修習には1年コースと2年コースが設けられており、ライフスタイルに合わせて選択できます。
修了考査では全課程修了者に記述式と口述式の試験が実施され、合格してから登録、不動産鑑定士として活動できるようになります。
不動産鑑定士の年収はどれくらい?キャリアステージ別に解説
不動産鑑定士の年収について、資格取得直後からキャリアアップ後までの年収の推移について説明します。年収の変化や業界内での待遇について詳しく見ていきます。
不動産鑑定士の年収の推移
不動産鑑定士の年収は、資格取得直後からキャリアアップを経て大きく変動します。
資格取得直後の年収は、一般的に約600万円から800万円ですが、経験年数や勤務形態、地域や企業規模によって変動があります。
不動産鑑定士として活動をはじめて5年後には、年収約800万円から1,100万円に上昇する傾向があります。
10年後になると年収が約900万円から1,300万円になるのが一般的で、プロジェクトや重要な案件を任されることが期待できるでしょう。
「勤務鑑定士」と「独立鑑定士」別の年収傾向
不動産鑑定士には「勤務鑑定士」と「独立鑑定士」の2つの働き方があります。
「勤務鑑定士」は企業に所属するため、安定した給与と福利厚生、特に大手企業の場合は年収が高く設定される傾向があります。
「独立鑑定士」は本人の営業力や顧客との関係によって左右されるため、年収が大きくばらつきがちです。
成功すれば年間数千万円を得ることも可能ですが、収入を安定させるには相当の努力が必要になります。
地域差も影響があり、都心部の場合は不動産価格が高く鑑定評価の案件が多いため、高収入が期待できますが、地方では需要が少なくなるため、年収が低くなる可能性があります。
不動産鑑定士の業界内の待遇
業界内の待遇については、高い専門性と安定した需要を考えると良好です。不動産鑑定士は特に公的機関や金融機関からの需要が高いため、安定した仕事を得やすいメリットがあります。
不動産の鑑定評価し、書類を作る独占業務を持っているのは、他の職業と比べると高い報酬を受け取れる機会が得やすい職業です。
高度な専門知識を持つ不動産鑑定士の需要は、今後も続くでしょう。
不動産鑑定士の求人情報の現状と将来性について詳しく紹介
不動産鑑定士の求人状況や将来性について解説します。市場における需要の変化やキャリアの選択肢について理解し、将来の見通しを立てましょう。
不動産鑑定士の求人情報と市場における需要の変化
不動産鑑定士の求人は活発に行われており、正社員、アルバイトやパートのように雇用形態はさまざまで、年収も400万円から800万円以上と幅広い給与設定がされています。
求人の活発化は、不動産鑑定士の市場における需要が、経済状況などの変化に大きく影響を受けているからです。
経済の変化については、不動産取引が減少したものの、インフラ整備の需要が高まっており、不動産の評価が重要視されています。他にもマンションや施設などの不動産需要、土地や建物を含む不動産評価への多様なニーズなど、不動産を取り巻く環境は多岐に渡ります。
不動産の鑑定評価ができる、高度な専門性を持つ不動産鑑定士への需要が、求人に表れているといえるでしょう。
不動産鑑定士のキャリアの選択肢は多い
不動産鑑定士はさまざまなキャリアを選べる職業です。
企業や公的機関で仕事をする「勤務鑑定士」、自分の事務所を開設して仕事をする「独立開業」、不動産投資顧問業やコンサルティング会社での勤務のように、不動産鑑定士としてのキャリア選択肢は多くあります。
他の資格と組み合わせ、ダブルライセンスを持てば業務の幅を広げるのも可能です。
不動産鑑定士としてのキャリアは不動産市場の変化や個人の専門性から考え、自分の興味やスキルに応じて考えと最適な選択がしやすく、活躍の幅を広げやすくなります。
不動産鑑定士として独立するには?独立のメリットとリスク
不動産鑑定士として独立する場合のメリットやリスクについて詳しく解説します。独立を考えている方が知っておくべき情報を提供し、自分のキャリアプランを考える参考にしましょう。
不動産鑑定士として独立するメリットとリスク
不動産鑑定士として独立するメリットは、年収アップが目指せて初期投資が少ないことです。企業と違って直接取引になり、報酬も自分で設定できるからです。また、不動産鑑定士は業務で高価な設備や機材が必要にならないため、他の仕事と比較すると初期投資は少なくて済みます。
リスクは市場競争と顧客獲得が難しいことです。特に都市部では市場競争が激しいため、顧客獲得が難しい場合があります。都市部でなくとも、独立開業することは新規参入となるため、すでにいる不動産鑑定士と競争を始めるともいえます。
差別化したサービスの提案、特定の地域やニッチ市場に特化したサービス展開などで戦略を練る必要があります。こうしたリスクに備え、事前準備が必要になります。
不動産鑑定士として独立する事前準備の徹底を
不動産鑑定士として独立を考えるなら、すぐに行動するのではなく次の準備が整っているかを確認する必要があります。
・資格取得と実務経験
・人脈の構築
・集客方法
・開業資金と維持費
・事業内容の明確化
独立するとなると、不動産鑑定士としての知識や経験だけでなく、ビジネス面での将来を見越した準備が必要になります。
特に人脈の構築は、独立後に新規顧客を獲得するために重要です。顧客がいないことには独立しても仕事ができませんので、事業内容を明確化し、集客方法について戦略的に考えてから行動するのがいいでしょう。
不動産鑑定士はやめとけと言われる理由とは?真実と誤解を分析
不動産鑑定士に対して「やめとけ」と言われる理由について、その背景にある真実と誤解を分析します。
不安を感じている方に対して、現実的な視点で情報を提供します。
不動産鑑定士はやめとけと言われる理由3つ
不動産鑑定士は「やめとけ」と言われる職業の1つです。やめとけと言われるのは次のような理由からです。
不動産鑑定士はやめとけと言われる理由
- 資格取得の難易度の高さ
- 業務のストレスと責任の重さ
- 業界の変動性による収入の不安定さ
不動産鑑定士試験の難易度の高さから、資格取得を断念する人が少なくありません。また、不動産を評価するという重要な業務を担っており、交渉や納期、調査などで精神的・体力的にも厳しい場面が多くあります。
収入については不動産市場が景気に左右されやすく、不況のときには依頼件数が減少する懸念があり、不安定だと考えられています。
不動産鑑定士はやめとけと言われる誤解と現実的分析
不動産鑑定士はやめとけと言われているものの、魅力的な職業でもあります。
不動産鑑定士には「不動産鑑定評価書」を作る独占業務があり、他の職業には絶対に真似できません。独占業務だからこそ高収入を狙いやすく、不況時の市場を懸念されていますが、需要があるのは間違いありません。
不動産鑑定士にしかできない業務を遂行するのですから、当然責任は重大です。しかし、責任のある仕事を自分の手でできる、つまり裁量のある仕事が自分でできるため、自分の成長に繋がります。
さらにコンサルディングなどを含む業務や企業勤務、独立、ダブルライセンスなどで、可能性を広げやすい職業であるのも魅力です。
試験は勉強量や難易度の高さから非常に大変ですが、高収入が狙えて業務を自分で広げられる職業と考えた場合、やめとけとは言い切れません。不動産鑑定士が自分にとって魅力的な職業かどうかは、自分自身の適性や目指す方向性によるキャリアプランをしっかり考えてから判断しましょう。